《第1回》板井郁也 思い出のプログラム BEST 3+1 〜オペラ座の怪人が、ただ好きでしょうがなかった

18年間のフィギュアスケート選手人生で滑ったたくさんのプログラムから、思い出の深い曲について語ります。

2019年9月18日に「扉を開けたら」でデビューする板井郁也のこれまでとこれからを伝えるインタビューシリーズ ”Open my door” 第1回です。

<4位>仮面の男

2008-09/2009-10シーズン FS

振付:川越正大


「仮面の男」を使うことは、(コーチである)山本雅江先生が決めてくれた。僕は、音楽をよく聴いて滑りをあわせてしまうタイプなので、テンポが早い曲はジャンプが跳びにくい。ジャンプを決めたかったので選んだ。ヤグディンの「仮面の男」が有名だけど、比較的ゆっくりのテンポに、盛り上がりも独特で、フィギュアスケートにぴったりの曲。


映画「仮面の男」は何回も見たけど、高校生だったからあまり深くは分からなかったかな。当時の僕の雰囲気にあっていたと思う。


このプログラムでは、力強さ・華麗さ・優雅さなどより、1つ1つのエレメンツの強さ・質の高さを見せることに取り組んだ。その頃はまだ難しいステップや表現はできなかった。


高校1年生のインターハイ(2009年1月/広島ビッグウェーブ)で、このFS「仮面の男」で今までにないいい演技ができて総合3位になった。すぐ後にあった国体(2009年1月/三沢アイスアリーナ)でも同じくらい良い点が出せて、次のシーズンに初めて強化選手に入れた。


インターハイでの演技は、人生で初めて体験した”ゾーン"だった。演技の内容でも、成績面でも、その後のスケート人生を変えるきっかけになったとても大切なプログラム。次のシーズンも継続して、2年間滑った。強化選手になって、求められるレベルが上がって大変だったときも「仮面の男」が支えてくれた。


そんな「仮面の男」は「思い出のプログラム」に絶対入れなきゃ!(笑) 4位に入れよう。


※当初は「BEST3」のインタビューだったが、ジュニア時代話のなかで出てきた「仮面の男」を追加し、「BEST3+1」という記事になった

2009年「仮面の男」



<3位>アランフェス協奏曲

2016-17シーズン FS

振付:川越正大


現役の一番最後、引退シーズンに滑ったプログラム。滑った回数は少ないけれどとても思い入れがある。


最後だから「好きな曲をやろう」「やりたいことをやろう」と考え、とてもたくさんの曲を聞いて探したなかで選んだ。「アランフェス協奏曲」は引退シーズンに使う選手が多い、ベテラン選手が滑る曲。


大好きな高橋大輔が2004-2005年シーズンに滑っているのを見て憧れたのと同じ音源が入っている。 もとの「アランフェス協奏曲」はアコースティックギターを中心にした管弦楽団の演奏だけど、これはエレクトロアレンジでビートが特徴的な編曲。3枚のCDを組み合わせて、4分30秒のプログラム曲を作っていて、音楽編集にはとても時間がかかった。


「アランフェス協奏曲」から感じたのは切なさしかない。哀愁。幕が閉じるような終わりのイメージ。「いよいよ長かった現役の幕が閉じる」という振付と構成でプログラムを作ってもらった。


「アランフェス協奏曲」に決まったストーリーはないが、プログラムにこめて最後に見てくれる人たちに伝えたいストーリーがあった。♪タララ~ (メインの旋律)の滑りは、僕の伝えたいイメージがつまっている。「もう最後」「本当はもっとスケートで表現をしたい」。最後のステップでは、激しいビートに助けられながら重い荷物を背負って必死に戦い、幕がおりて消えていく。ベタな感動で終わろうというのは絶対に嫌だったし、終わりたくなかった。

2017年 引退エキシビション



<2位>タンゴ・デ・ロス・エクシラドス

2009-10/2010-11シーズン SP

振付:川越正大


「タンゴ・デ・ロス・エクシラドス」は山本先生と川越先生が相談をして決めてくれた曲。その前は「座頭市」「ロビンフッド」「仮面の男」と、映画サントラのプログラムでストーリーを表現することが続いたので、新しいチャレンジだったが、最初はやりたくなかった。


タンゴという音楽ジャンルが全然馴染みがなくて分からなかったし、難しすぎた。振付をしてもらっても、今までのようにスッと入ってこない。タンゴの舞台を見に行ったけれど、そのときは良く分からなかった。


1シーズン目は全然上手くいかなかったけれど、あきらめずに継続し、2シーズン目も滑るにあたって、振付の川越先生のレッスンを増やして、たくさん振り付けの指導をしてもらった。川越先生と時間をかけて猛練習を続けるうちに、タンゴの音楽での間のとり方・見せ方というのがつかめてきた。


現役で滑ったプログラムのなかで、この曲が一番難しかった。難しいプログラムにチャレンジすることで、表現がガッと大きく一段上がれたきっかけになった。これを持っていった初めての海外試合(ISU国際大会 モンブラントロフィー)もいい状態で滑れて楽しかった。


2010年の全日本選手権(長野ビッグハット/ジュニア推薦で出場)では、ここまでの練習の成果を出し切った会心の演技ができて(ショート12位)、初めてスタンディングオベーションを体験した。日頃の試合よりケタ違いに多い全日本のお客さんから囲まれて拍手をあびて、花が矢のようにびゅんびゅんと飛んできた。


後でリンクサイドを歩いていたら、鈴木明子さんが30mぐらい?はるか遠くの客席から手を振って「タンゴー!よかったよー!」と大きな声でほめてくださった。雲の上の選手が僕を見てくれたことにも、遠くから気づいてくれたことにもびっくりしたし、感激した。この時の全日本ショートでは、(鈴木さんと同門の)木原龍一くんも同じ「タンゴ・デ・ロス・エクシラドス」を滑っていたので、それもあるかな。


「タンゴ・デ・ロス・エクシラドス」は2シーズン滑って、最後まで「曲が好き」にはならなかった。「嫌いではない」ぐらいの曲だったが、とてもたくさんの人に「板井くんにあっている!」「とてもいい!」と言ってもらった不思議なプログラムだった。


※ショートの滑走順は7番と早かったため放送されず、郁也本人もこの会心の演技の動画を持っていない

2009年 全日本選手権



<1位>オペラ座の怪人

2010-11/2014-15/2015-16シーズン FS

振付:川越正大


「オペラ座の怪人」は、選手として一番良い成績が出せた全盛期の最後に滑ったフリーで、復帰後も滑った。良いときも悪いときも一緒に戦った一番思い入れのあるプログラム。復帰した後の辛かった戦いで踏みとどまれたのも「オペラ座の怪人」のおかげ。


ずっと先生にプログラムを決めてもらってきたが、この曲は自分がやりたいと初めて決めた。


髙橋大輔の「オペラ座の怪人」が大好きだし、本当にこの音楽が好きで、シニアで戦っていくのにふさわしいプログラムとして選んだ。


僕の「オペラ座の怪人」は流れるようにストーリーが展開していく。ミュージカル「オペラ座の怪人」からの曲の選び方・構成は他の人とは変わった部分を使っている。


定番のオルゴール音や”Masquerade”は使っていない。ファントムの曲である”The Point of No Return”と”Music of the Night”を長く使って、ファントムを演じ、ストーリーと心の動きを表現する。曲の構成だけではなく、もとのCDにはない効果音を加え、ドラマチックな演出をしている。風の吹きすさむ音で始まり、フライングスピンにあわせて雷鳴が鳴り、終盤には爆発音の嵐のなかをステップで踊る。


滑れば滑るほど、もっと表現をこうしたいというのが強くなるプログラムだった。「この間を…」「このイーグルを…」ともっと表現したいところが出てきて尽きなかったし、ステップはすごくたくさん練習した。最後に試合で滑ったのはもう4年ぐらい前のことだけど、今でもステップは滑れる。


3回出場した海外試合には、「タンゴ・デ・ロス・エクシラドス」と「オペラ座の怪人」をセットでも持っていって、「板井くんのオペラ座いいね!」と言ってもらったり、たくさんの人に見てもらえた。


復帰後には、2010年の全日本フリー第3グループ(最終グループの1つ前)で滑った「あの場所が忘れられない、何としても戻りたい!」という思いで滑った。(あふれる才能がありながら、世間から疎外されるファントムに)自分の気持ちが重なった。


「オペラ座の怪人」が、ただ好きでしょうがなかった。滑ってるじぶんも好きだし、練習も好き。大変なことがたくさんあったけれど、滑っているときは楽しかった。タンゴとは正反対(笑)

2014年「オペラ座の怪人」冒頭3Lzを降りて


数々の試合での演技が、熱いスケートリンクの空気が、懐かしく思いおこされる「思い出のプログラム BEST3+1」いかがだったでしょうか。この記事を読んでの感想や思い出があれば、このページの下にあるtwitterボタンからシェアしてください。


次回の「板井郁也 Open my door 第2回」は「初めてのスケート、初めての試合 〜クレヨンしんちゃんに憧れて」を予定しています。お楽しみに!


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タイトル写真撮影:木村真人

板井郁也 [公式]

フィギュアスケートと歌手、ジャンルを超えたアーティストとして活動しています。

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